「ターゲットを決めたはずなのに、施策のたびに対象がずれていく」——マーケティング担当者からよく聞く悩みです。原因の多くは、「本当に届けたい狭いターゲット」と「事業として成立させるために必要な広いターゲット」を1つの言葉で扱ってしまっていることにあります。本記事では、この2つを「コアターゲット」「戦略ターゲット」として使い分ける考え方と、ぶれない設定方法を4ステップで解説します。

ターゲット設定がぶれる根本原因

「30代女性」「経営者層」のように、ターゲットを一つの塊として設定してしまうと、施策を検討するたびに解釈が揺れてしまいます。ある担当者は「30代女性」を子育て中の層としてイメージし、別の担当者はキャリア志向の独身層としてイメージするかもしれません。同じ言葉を使っていても、頭の中の顧客像が一致していなければ、施策の方向性はバラバラになります。

もう一つの原因は、「本当に刺したい層」と「事業のボリュームを確保するために必要な層」を混同していることです。狭く深く刺さるメッセージを追求すると届く母数が減り、広くリーチを取ろうとするとメッセージがぼやける——この二律背反を1つのターゲット像で解決しようとするから、設定が定まらなくなるのです。

コアターゲットと戦略ターゲットの違い

この問題を解決するのが、ターゲットを2つの階層に分けて考える方法です。

項目 コアターゲット(CT) 戦略ターゲット(ST)
定義 本当に届けたい、価値を深く理解してくれる中心的な層 事業規模を成立させるために必要なリーチを持つ、より広い層
役割 メッセージの「軸」となり、ブランドの世界観を決める 実際の売上・リーチのボリュームを確保する
広さ 狭く深い コアターゲットを内包する、より広い範囲
使い方 コンセプトやメッセージの純度を決める基準にする 実際に広告やSNSで届ける配信対象にする

ポイントは、戦略ターゲットに向けて発信する際も、メッセージの軸はコアターゲットに合わせておくという点です。広い層に届けながらも、芯となるメッセージがぶれないため、結果的に多くの人に「刺さる」発信になります。

コアターゲットと戦略ターゲットの関係 戦略ターゲット(ST) 事業ボリュームを確保する広い層 コアターゲット (CT) メッセージの軸はCTに合わせ、届ける範囲はSTまで広げる

具体例で見るコアターゲットと戦略ターゲット

抽象的な説明だけでは掴みにくいため、架空のスキンケアブランドを例に、2つのターゲットの使い分けを見てみましょう。

項目 内容
コアターゲット 敏感肌に長年悩み、複数のブランドを試しては合わずに困っていた30代女性。成分の安全性を重視し、SNSでの口コミよりも成分表示を自分で調べて判断するタイプ
戦略ターゲット 20〜40代の女性で、スキンケアに一定の関心があり、成分にもある程度気を配りたいと考えている層

このブランドの場合、広告のコピーやパッケージデザインは「敏感肌で悩み続けてきた人」というコアターゲットの心情に寄り添った表現で磨き込みます。一方で、実際の広告配信では戦略ターゲットの範囲まで対象を広げ、リーチを確保します。コアターゲットの心情に響く言葉は、実は戦略ターゲットの中の多くの人にも刺さるという現象がよく起こります。「本当に困っている人」に向けた切実なメッセージは、そこまで深刻に悩んでいない人の目にも、説得力のある言葉として映るためです。

コアターゲットの定め方 4ステップ

コアターゲットと戦略ターゲットを実際に設定する際の手順を、4つのステップに分けて解説します。

ステップ1 既存顧客から「熱量の高い層」を洗い出す

最初のステップは、既存顧客の中から特に自社を高く評価してくれている層を洗い出すことです。リピート率が高い顧客、紹介をしてくれる顧客、レビューで熱量高く語ってくれる顧客に注目しましょう。「誰にでも当てはまりそうな層」ではなく、「熱狂的に支持してくれている層」から逆算するのがポイントです。

具体的には、購買データから上位顧客(LTVの高い層)を抽出し、可能であればその顧客に直接インタビューを行うのが最も精度の高い方法です。データが十分にない場合は、営業担当者やカスタマーサポート担当者に「特に印象に残っている顧客」をヒアリングすることでも、傾向をつかむことができます。

ステップ2 その層が価値を感じている理由を深掘りする

熱量の高い顧客が見つかったら、なぜその商品・サービスを選び続けているのかを深掘りします。属性(年齢・性別・職業)だけでなく、その人がどんな課題を抱え、どんな価値観を持っているのかまで掘り下げることで、コアターゲット像の解像度が上がります。

このとき、「安いから」「便利だから」といった表面的な理由で終わらせず、「なぜ安さを重視するのか」「何と比較して便利だと感じたのか」と、理由の背景にある価値観まで一段深く聞いていくことが重要です。表面的な理由は競合にも当てはまりやすいですが、背景にある価値観は、自社ならではの強みと結びついていることが多いためです。

ステップ3 コアターゲットを内包する戦略ターゲットの範囲を決める

コアターゲット像が定まったら、それを中心としつつ、事業のボリュームを確保するために、どこまで対象を広げられるかを検討します。ここで重要なのは、戦略ターゲットはコアターゲットと全く異なる層ではなく、コアターゲットを含んだ「広い版」であることです。全く違う層を戦略ターゲットに設定してしまうと、メッセージの一貫性が崩れてしまいます。

範囲を決める際の目安としては、コアターゲットが持つ課題や価値観のうち、「中核となる1〜2個の要素」だけを緩めて対象を広げる、というイメージを持つとよいでしょう。すべての条件を緩めてしまうと、結局は誰にでも当てはまる層になり、コアターゲットとの一貫性が失われてしまいます。

ステップ4 メッセージと配信範囲を使い分ける

最後に、コンセプトやコピーライティングの軸はコアターゲットに合わせて磨き込み、実際の広告配信やSNSの届け先は戦略ターゲットまで広げるという運用に落とし込みます。この使い分けを意識するだけで、「広く届けているのに、芯のあるメッセージ」を両立できるようになります。

実務上は、広告の配信設定(年齢・地域・興味関心など)は戦略ターゲットの範囲で設定しつつ、クリエイティブやコピーの制作時には常に「コアターゲットの心に刺さるか」を判断基準にするという運用が現実的です。

2つのターゲットを設定するメリット

  • リーチと深さを両立できる:コアターゲットだけでは対象が狭すぎてビジネスが成立しにくく、戦略ターゲットだけでは訴求がぼやけるという二律背反を解消できる
  • チーム内の判断基準が揃う:「これはコアターゲットに響くか」という共通の問いを持てるため、複数人での運用でも解釈のズレが起きにくい
  • 施策の優先順位がつけやすくなる:新しい施策のアイデアが出たときに、コアターゲットの課題に応えているかどうかで取捨選択できる

特に効果を実感しやすいのは、複数のメンバーでマーケティング施策を運用しているチームです。ターゲットを1つの曖昧な言葉で共有していると、担当者ごとに「刺さる」の基準が異なり、施策のたびに議論が振り出しに戻ってしまいます。コアターゲットという具体的な人物像を共通言語として持つことで、「このコピーはコアターゲットの〇〇さんに響くか」という形で、感覚ではなく基準に基づいた議論ができるようになります。結果として、意思決定のスピードも上がっていきます。

やりがちな失敗パターン

失敗パターン 起きていること
コアターゲットだけで運用しようとする 対象が狭すぎてリーチが足りず、事業として成立しない
戦略ターゲットだけで発信する 誰にでも当てはまる言葉になり、印象に残らない発信になる
2つのターゲットが別物になっている コアターゲットと戦略ターゲットに一貫性がなく、メッセージが分裂する
一度決めたら見直さない 顧客層の変化に対応できず、時間が経つほどズレが大きくなる

よくある質問

コアターゲットとペルソナは同じものですか

異なる概念です。コアターゲットは「狭く定義した顧客層(グループ)」であり、ペルソナはそのコアターゲットを代表する具体的な一人の人物像です。コアターゲットを定めたあとに、それを体現するペルソナを作成する順番が一般的です。ペルソナとの違いについては「ターゲットとペルソナの違い」の記事もあわせてご覧ください。

コアターゲットは一度決めたら変えないほうがいいですか

市場や顧客層は変化するため、定期的な見直しは必要です。ただし、頻繁に変えすぎるとメッセージの一貫性が失われるため、半年〜1年程度のスパンで、既存顧客のデータをもとに検証することをおすすめします。

BtoBの場合もコアターゲットとST の考え方は使えますか

使えます。BtoBの場合、コアターゲットは「特に自社の価値を深く理解し、長期契約につながっている企業タイプ」、戦略ターゲットは「営業リストとしてリーチしたい業界・企業規模の範囲」として設定すると整理しやすくなります。

新規事業でまだ既存顧客がいない場合は、どう設定すればよいですか

既存顧客がいない場合は、想定される顧客に近い層へのインタビューや、競合の顧客層の分析から仮説を立てます。仮のコアターゲット像を作り、実際にサービスを提供しながら検証・修正していくアプローチが現実的です。

コアターゲットが複数思い浮かぶ場合はどうすればいいですか

複数の候補がある場合は、無理に1つに絞る前に、それぞれの層のリピート率や顧客単価、紹介率などを比較してみましょう。事業への貢献度が最も高い層を優先的にコアターゲットとして設定し、他の層は戦略ターゲットの範囲内に位置づける形で整理すると進めやすくなります。

まとめ

ターゲット設定がぶれる根本原因は、「本当に届けたい狭い層」と「事業を成立させるための広い層」を1つの言葉で扱ってしまうことにあります。コアターゲットと戦略ターゲットという2つの階層に分けて考えることで、メッセージの芯を保ちながら必要なリーチも確保できるようになります。既存顧客の中から熱量の高い層を洗い出すところから始め、その層を中心に据えたうえで、事業に必要な戦略ターゲットの範囲を定めていきましょう。