広告も出している、SNSも更新している、Webサイトもある。それなのに、マーケティングの成果が思うように積み上がらない。そのような悩みを抱える会社の多くに共通しているのが、マーケティング全体に責任を持つ人がいないという状態です。本記事では、マーケティング責任者がいない会社で何が起きているのか、放置した場合に起きる5つの問題、そして取り得る選択肢までを整理して解説します。結論から言えば、まず必要なのは施策を増やすことではなく、「誰がマーケティング全体の判断を持つのか」を決めることです。

マーケティング責任者がいない会社は珍しくない

中小企業や成長途中のスタートアップでは、マーケティング責任者が明確に置かれていないケースは決して珍しくありません。営業責任者や経理担当は置かれていても、マーケティングについては「担当者が一人いる」「社長が片手間で見ている」「広告代理店に任せている」という状態のまま、事業が進んでいることが多いのです。

これは怠慢というより、組織の成り立ちとして自然な流れでもあります。創業期は社長自身の人脈や営業力で売上を立てるため、マーケティングという機能を独立させる必要性を感じにくいからです。問題は、事業が一定の規模に達し、広告費や外注費が増えてきたあとも、その体制が見直されないまま続いてしまうことにあります。

なぜ責任者不在のまま事業が進んでしまうのか

責任者不在が放置される理由は、大きく3つあります。1つ目は、マーケティングの成果が売上に直結して見えにくいことです。営業のように「今月の受注額」という形で数字が出るわけではないため、責任者がいないことによる損失が目に見えません。

2つ目は、施策単位では誰かが動いていることです。広告は代理店が運用し、SNSは担当者が投稿し、Webサイトは制作会社が更新している。一つひとつの業務は回っているため、「困っていない」ように見えてしまいます。

3つ目は、マーケティング責任者を採用するハードルの高さです。戦略立案から実行管理までを担える人材は市場でも限られており、採用しようとしても時間とコストがかかります。その結果、「必要だとは思っているが、後回しにしている」という状態が長く続きがちです。

「担当者がいるから大丈夫」が落とし穴になる理由

よくあるのが、「マーケティング担当者がいるから問題ない」という認識です。しかし、担当者と責任者では役割がまったく異なります。担当者の役割は、決められた施策を正しく実行することです。一方で責任者の役割は、どの施策に、どれだけの予算と時間をかけるかを決め、その結果に責任を持つことです。

担当者がどれだけ優秀でも、予算配分や施策の優先順位を決める権限がなければ、全体最適の判断はできません。結果として、担当者は目の前の作業に追われ、「本当にこの施策でいいのか」を誰も判断しないまま時間が過ぎていきます。

マーケティング責任者がいないことで起きる5つの問題

ここからは、マーケティング責任者がいない状態を放置したときに起きやすい問題を5つに分けて見ていきます。いずれも一つひとつは小さな違和感として現れますが、積み重なると事業の成長を大きく鈍らせる要因になります。

施策が場当たり的になり、成果が積み上がらない

1つ目の問題は、施策が場当たり的になることです。「競合がSNSを始めたからうちも」「展示会に誘われたから出てみよう」「代理店から新しい広告メニューを提案されたので試してみよう」といった具合に、施策が外部のきっかけで始まり、全体の中での位置づけが決まらないまま実行されていきます。

こうした施策は、それぞれが単発で終わってしまうため、成果が積み上がりません。本来、マーケティングは「認知を広げる施策」「比較検討を後押しする施策」「問い合わせにつなげる施策」がつながって初めて成果が出るものです。つなぐ役割を担う人がいなければ、どれだけ施策を増やしても効果は分散してしまいます。

広告費や外注費の投資判断ができない

2つ目は、お金の使い方を判断できないことです。広告費を増やすべきか減らすべきか、Web制作に投資すべきか、コンテンツ制作を外注すべきか。こうした判断には、事業の目標と各施策の効果を横断して比較できる視点が必要です。

責任者がいない会社では、この判断が「前年と同じ予算」「なんとなく効果がありそうなもの」で決まってしまいます。結果として、効果の薄い施策に予算を使い続けたり、逆に伸ばすべき施策に投資できなかったりします。マーケティング予算が経営判断ではなく慣習で決まっている状態は、責任者不在の典型的なサインです。

代理店・制作会社に主導権を握られる

3つ目は、外部パートナーへの依存です。広告代理店や制作会社は、それぞれの専門領域において力を持っていますが、あくまで自社の担当範囲での成果を追う立場です。広告代理店は広告の成果を、制作会社はサイトの完成度を重視するのは当然のことです。

社内に判断できる人がいないと、外部パートナーからの提案をそのまま受け入れるしかなくなります。提案の良し悪しを評価できず、レポートの数字が何を意味しているのかも分からない。こうして、自社のマーケティングの方向性が、実質的に外部パートナーによって決められてしまうのです。

営業とマーケティングの連携が取れない

4つ目は、営業部門との断絶です。BtoB企業では特に、マーケティングが獲得した見込み顧客を営業が受け取り、商談化・受注につなげる流れが重要になります。しかし責任者がいないと、「どんな見込み顧客を渡すべきか」「受け取ったリードをどう追いかけるか」といったルールが決まりません。

その結果、営業からは「マーケティングが持ってくるリードは質が悪い」、マーケティング側からは「営業がリードを追いかけてくれない」という不満が生まれます。これは個人の問題ではなく、両部門をつなぐ設計を誰も担っていないことが原因です。

担当者が疲弊し、ノウハウが社内に残らない

5つ目は、人と知見の問題です。責任者がいない環境では、担当者が何でも一人で抱え込むことになります。上司に相談しても判断できる人がいないため、担当者は手探りで施策を進め、うまくいかなければ自分の責任だと感じてしまいます。

こうした状態が続くと、担当者が疲弊して退職してしまうケースも少なくありません。しかも、施策の意図や結果が体系的に記録されていないため、担当者がいなくなるとノウハウも一緒に失われます。また一から手探りを始めることになり、何年経ってもマーケティングの成熟度が上がらないという悪循環に陥ります。

ここまでの5つの問題を整理すると、以下のようになります。

問題現場で見えるサイン放置した場合の影響
施策の場当たり化施策の開始理由が「誘われたから」「競合がやっているから」成果が積み上がらず、施策数だけが増える
投資判断の不在予算が前年踏襲で決まっている効果の薄い施策にお金を使い続ける
外部パートナー依存提案をそのまま受け入れている自社の方向性を外部が決めてしまう
営業との断絶リードの質をめぐる不満が出ている商談化率・受注率が上がらない
担当者の疲弊担当者が一人で抱え込んでいる退職とともにノウハウが失われる

自社に責任者機能があるかをチェックする

「マーケティング責任者」という肩書きの人がいるかどうかよりも大切なのは、責任者としての機能が社内に存在しているかどうかです。以下の項目に当てはまるものが多いほど、実質的に責任者不在の状態にあると考えられます。

  • マーケティングの年間目標やKPIが明文化されていない
  • マーケティング予算の配分を、根拠を持って説明できる人がいない
  • 実施中の施策を一覧で把握している人がいない
  • 代理店や制作会社の提案を評価・比較できる人がいない
  • 営業とマーケティングで、見込み顧客の定義が共有されていない
  • 施策の振り返りが定期的に行われていない
  • 担当者が判断に迷ったとき、相談できる相手がいない

3つ以上当てはまる場合は、施策を増やすよりも先に、マーケティング全体を見る役割を誰が担うのかを決めることをおすすめします。

マーケティング責任者がいない会社が取れる選択肢

責任者の必要性を感じたとき、取れる選択肢は大きく4つあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、自社の状況によって最適な答えは変わります。

方法メリット注意点
正社員として採用する社内に知見が蓄積し、長期的に組織を任せられる採用難易度が高く、入社まで時間とコストがかかる
社内の人材を育成・登用する自社の事業や顧客を深く理解している育成に時間がかかり、手本となる人が社内にいない
マーケティングコンサルに依頼する専門的な知見で戦略を整理できる戦略策定で支援が終わり、実行が社内に残りやすい
外部の責任者を置く(業務委託)採用より早く、必要な期間だけ責任者機能を持てる社内への知見移転を意識した設計が必要

ここで押さえておきたいのは、「採用するか、あきらめるか」の二択ではないということです。採用が難しい場合でも、外部から責任者機能を取り入れるという選択肢があります。

責任者を置く前にまず着手すべき3つのこと

どの選択肢を取るにしても、責任者を迎える前に社内で整理しておくと、その後の立ち上がりが大きく変わるポイントがあります。

  1. 現在実施している施策の棚卸し: 広告、SNS、Webサイト、展示会、メルマガなど、実施中の施策と年間の費用を一覧にします。何にいくら使っているかが見えるだけでも、判断の土台ができます。
  2. 事業目標とマーケティングの役割の確認: 売上目標のうち、マーケティング経由で獲得したい割合はどれくらいか。新規顧客の獲得なのか、既存顧客の深耕なのか。マーケティングに期待する役割を経営として言語化しておきます。
  3. 判断に必要なデータの所在確認: 問い合わせ数、商談数、受注数、広告の成果などのデータがどこにあるかを確認します。データが散らばっていても構いません。所在が分かっているだけで、責任者が着任後すぐに現状分析に入れます。

この3つは社内の誰かが半日から1日程度で着手できるものです。責任者の確保と並行して進めておくことで、無駄な時間を減らせます。

よくある質問

マーケティング責任者は何人規模の会社から必要ですか?

従業員数で一律に決まるものではありません。目安としては、マーケティングに継続的に予算を使い始め、複数の施策を同時に動かすようになった段階で、全体を判断する役割が必要になります。社員数が少なくても、広告費や外注費が増えているなら検討する価値があります。

マーケティング担当者を責任者に昇格させればよいのではないですか?

有力な選択肢の一つです。ただし、実行と判断では求められるスキルが異なるため、昇格させるだけで機能するとは限りません。予算権限や経営との対話の場を用意し、判断の手本となる人や仕組みを並行して整えることが大切です。

社長がマーケティングを見ているなら責任者は不要ですか?

社長がマーケティングに十分な時間を割けているなら問題ありません。しかし多くの場合、社長は経営全般を見る必要があり、マーケティングの検証や改善まで手が回らなくなります。

広告代理店に全体を任せることはできませんか?

代理店によっては戦略面まで支援してくれる場合もありますが、基本的には自社の担当領域での成果を追う立場です。広告以外の施策も含めて全体を最適化し、代理店の提案を評価する役割は、自社側に持っておく方が安全です。

外部の人にマーケティング責任者を任せても大丈夫ですか?

業務範囲と権限、社内メンバーとの連携方法を明確にすれば、十分に機能します。むしろ採用までの期間をつなぐ、あるいは社内に責任者を育てるまでの伴走役として活用する企業も増えています。重要なのは、戦略だけでなく実行管理まで関わってもらうことです。

まとめ

マーケティング責任者がいない会社では、施策の場当たり化、投資判断の不在、外部パートナーへの依存、営業との断絶、担当者の疲弊という5つの問題が起きやすくなります。いずれも一つひとつは小さな違和感ですが、放置すると成果が積み上がらない状態が長く続いてしまいます。大切なのは、施策を増やすことよりも先に、マーケティング全体の判断を誰が持つのかを決めることです。採用、育成、コンサル、外部の責任者という選択肢の中から、自社の状況に合った方法を選び、責任者機能を社内に確保していきましょう。