中小企業やスタートアップでは、社長自身がマーケティングの責任者を兼ねているケースが多く見られます。創業期にはそれが最も合理的な体制ですが、事業が成長するにつれて、いつの間にか社長の兼任が成長の足かせになっていることがあります。
本記事では、社長がマーケティング責任者を兼任することで起きやすい問題点と、マーケティングを手放すべきタイミング、そして手放し方の選択肢を解説します。結論として、社長がマーケティングを手放すべきなのは、マーケティングの判断が社長の時間に左右され始めたときです。
この記事で分かること
- 社長がマーケティングを兼任することで起きやすい5つの問題
- マーケティングを手放すべき5つのタイミング
- 社長が残すべき役割・渡すべき役割と、手放し方の選択肢
こんなお悩みありませんか?
- マーケティングは自分が見ているが、正直手が回っていない
- 担当者が指示待ちで、自分から提案してこない
- 施策の判断が自分待ちで止まっている
- 手放したいが、誰に何を任せればよいか分からない
この記事の要点
社長がマーケティングを兼任するのは創業期には合理的ですが、事業が成長すると成長の足かせになりやすくなります。マーケティングの判断が社長の時間に左右され始めたら、それが手放すタイミングです。
- 兼任では後回し・属人化・指示待ち・成功体験への固執・検証の甘さが起きやすい
- 社長は「何を実現したいか」、責任者は「どう実現するか」を担う
- 手放す前に、社長の判断基準を言語化しておくことが引き継ぎの本体
社長がマーケティングを兼任するのは自然な流れ
目次
経営者
創業以来、マーケティングは私がずっと見てきました。これはよくないことなんでしょうか。
マーケ
責任者
創業期においてはむしろ最適な体制です。ただ、事業の段階が変わると同じ体制が足かせになることがあります。 創業期と成長期で変わる「社長兼任」の意味 創業期:兼任が合理的 ✓ 顧客を誰よりも理解 ✓ 意思決定が速い ✓ 想いを直接語れる 成長期:兼任が足かせに × 時間が足りない × 判断が属人化する × 検証が甘くなる
まず前提として、社長がマーケティングを兼任すること自体は悪いことではありません。むしろ創業期においては、社長ほどマーケティングに適した人はいないと言えます。
社長は、自社の商品やサービスを誰よりも深く理解しています。どんな顧客のどんな課題を解決するために事業を始めたのか、その想いや背景を最もよく語れるのも社長です。また、顧客と直接会話する機会も多く、市場の反応を肌で感じ取ることができます。さらに、意思決定のスピードが速いことも大きな利点です。施策を試したいと思えば、誰の承認も待たずにすぐ実行に移せます。
こうした理由から、創業期の社長兼任はとても理にかなった体制です。問題は、事業の規模や段階が変わったあとも、その体制がそのまま続いてしまうことにあります。
このセクションのポイント
- 創業期の社長兼任は、顧客理解と意思決定の速さの面で合理的
- 問題は兼任そのものではなく、成長後も体制が変わらないこと
- 事業の段階に合わせて体制を見直す視点が必要
社長兼任で起きやすい5つの問題
経営者
最近、マーケティングに割く時間がどんどん減っています。何か問題が起きているのでしょうか。
マーケ
責任者
時間が減っていること自体が一つ目のサインです。社長兼任が続くと、5つの問題が連鎖的に起きやすくなります。 社長兼任で起きやすい5つの問題 マーケが 後回しに 判断が 感覚頼み 担当者が 指示待ち 過去の成功に 縛られる 効果検証が 甘くなる 社長の時間がボトルネックに
事業が一定の規模に達すると、社長兼任の体制にはいくつかの問題が現れ始めます。ここでは代表的な5つを見ていきます。
マーケティングが常に後回しになる
1つ目は、時間の問題です。事業が成長すると、社長の仕事は資金調達、採用、組織づくり、大口顧客との商談、取引先との交渉など、どんどん増えていきます。その中で、マーケティングは緊急度が低く見えやすいため、真っ先に後回しにされます。
広告の成果を確認するのが月末になり、Webサイトの改善案は何か月も保留され、コンテンツの企画は止まったまま。社長の頭の中には「やるべきこと」があっても、実行に移す時間がないのです。マーケティングは継続的な改善で成果が出るものなので、後回しが続くと成果は確実に鈍化します。
判断が社長の感覚に依存する
2つ目は、判断基準の属人化です。社長が一人でマーケティングを見ていると、施策の判断が社長の感覚や経験に頼ったものになりがちです。社長の感覚が優れていることは多いのですが、それが言語化されていないと、社内の誰も同じ判断ができません。
「なぜこの施策をやるのか」「なぜこの広告はやめたのか」の理由が共有されないため、担当者は社長の判断を待つしかなくなります。そして社長が忙しくなるほど、判断待ちの案件が積み上がっていきます。
担当者が指示待ちになる
3つ目は、担当者の成長の問題です。社長がマーケティングの判断をすべて握っていると、担当者は社長の指示を実行する役割に固定されます。自分で考えて提案しても、最終的には社長の一声で方向が変わるため、担当者は次第に考えることをやめ、指示を待つようになります。
この状態では、担当者が育たず、いつまでも社長がマーケティングから離れられないという悪循環に陥ります。社長が「任せられる人がいない」と感じている背景には、任せられる人が育たない構造を社長自身が作ってしまっている場合もあるのです。
過去の成功体験に縛られる
4つ目は、成功体験の問題です。創業期に売上を立てたやり方、例えば社長の人脈による紹介営業や、特定の展示会での受注は、社長にとって強い成功体験になっています。そのため、市場や顧客が変化しても、過去にうまくいった方法にこだわってしまうことがあります。
新しいチャネルや手法を試すことに消極的になったり、担当者の提案を「うちには合わない」と退けたりすることで、変化への対応が遅れます。社長にとって最も身近な成功パターンが、次の成長の妨げになってしまうのです。
効果検証が甘くなる
5つ目は、検証の問題です。社長が自ら始めた施策は、社長自身が評価することになります。自分の判断を客観的に振り返るのは誰にとっても難しいもので、成果が出ていない施策でも「もう少し続ければ効果が出るはず」と継続してしまうことがあります。
また、社長に意見できる人が社内にいない場合、施策の問題点を指摘する人もいません。マーケティングの判断に対して、客観的な視点が入らない体制は、無駄な投資が続く原因になります。
このセクションのポイント
- 事業の成長とともに、マーケティングは後回しにされやすい
- 判断が言語化されず、担当者が指示待ちになる
- 成功体験への固執と、客観的な検証の欠如が無駄な投資を生む
マーケティングを手放すべき5つのタイミング
経営者
では、どのタイミングで手放せばいいのでしょう。まだ早い気もしています。
マーケ
責任者
次の5つのサインで判断してみてください。特に「判断待ちの案件が溜まっている」なら、すでに機会損失が起きています。
では、社長はどのタイミングでマーケティングを手放すべきなのでしょうか。以下のようなサインが現れたら、体制を見直す時期だと考えてよいでしょう。
| サイン | 具体的な状態 |
|---|---|
| マーケティングに週数時間も割けない | 施策の確認や改善が月単位で滞っている |
| 判断待ちの案件が溜まっている | 担当者や外注先が社長の返答を待って止まっている |
| マーケティング予算が増えてきた | 広告費や外注費が、感覚で判断できる規模を超えている |
| 紹介や人脈だけでは成長が頭打ちになった | 新規顧客の獲得経路を増やす必要が出てきた |
| 社長自身が経営に集中したいと感じている | 資金調達や組織づくりなど、社長にしかできない仕事が増えた |
特に重要なのは1つ目と2つ目です。社長の時間がボトルネックになり、マーケティングの判断が止まっている状態は、それだけで機会損失を生んでいます。このサインが見えたら、体制を変えることを具体的に検討すべきです。
なお、これらのサインは同時に現れることがほとんどです。予算が増えれば判断すべきことも増え、判断が増えれば社長の時間はさらに足りなくなります。そして判断が滞ると、紹介や人脈以外の獲得経路を育てる余力もなくなっていきます。一つでも当てはまると感じた時点で、体制を見直す準備を始めておくと、手遅れになる前に移行を進められます。
このセクションのポイント
- 週数時間も割けない、判断待ちが溜まっている、が最重要サイン
- 予算の増加や成長の頭打ちも、体制見直しのタイミング
- サインは同時に現れやすいので、一つでも当てはまれば準備を始める
手放すときに社長が残すべき役割と渡すべき役割
経営者
手放すといっても、会社の方向性まで人に任せるのは不安です。
マーケ
責任者
すべてを渡す必要はありません。社長は「何を実現したいか」を、責任者は「どう実現するか」を担う。この線引きが鍵です。 社長と責任者の役割分担 社長 「何を実現したいか」を示す ビジョンと方向性 期待する成果と予算枠 重要な方針転換の承認 マーケティング責任者 「どう実現するか」を判断する 戦略への落とし込み 施策ごとの予算配分 日々の判断と実行管理
「マーケティングを手放す」といっても、すべてを丸投げするわけではありません。社長だからこそ担うべき役割と、責任者に渡すべき役割を分けて考えることが大切です。
| 社長が残すべき役割 | 責任者に渡すべき役割 |
|---|---|
| 事業のビジョンと中長期の方向性を示す | ビジョンをマーケティング戦略に落とし込む |
| マーケティングに期待する成果と予算枠を決める | 予算枠の中で施策ごとの配分を決める |
| ブランドの核となる価値観を守る | 施策ごとのメッセージや表現を決める |
| 重要な方針転換を最終承認する | 日々の施策判断と効果検証を行う |
| 定期的に報告を受け、方向性を確認する | 担当者や外注先を統括し、実行を管理する |
このように整理すると、社長の役割は「何を実現したいか」を示すことであり、責任者の役割は「どう実現するか」を判断し実行することだと分かります。社長が手放すのはマーケティングへの関与ではなく、日々の判断と実行管理です。この線引きを明確にしておくことで、社長は経営に集中しながらも、マーケティングの方向性をコントロールし続けることができます。
このセクションのポイント
- 社長はビジョン・成果と予算枠・重要な方針の承認を残す
- 責任者には戦略化・予算配分・日々の判断と実行管理を渡す
- 手放すのは関与ではなく、日々の判断と実行管理
手放す前に社長が言語化しておくべきこと
経営者
引き継ぐ前に、私の側で準備しておくことはありますか?
マーケ
責任者
社長の頭の中にある判断基準を言葉にしておくことです。これが引き継ぎの本体と言ってもいいくらい重要です。 手放す前に言語化しておく4つのこと 創業の背景 発信の軸になる 顧客獲得の経緯 成功の理由を残す 失敗した施策 同じ投資を避ける 譲れないこと 任せる範囲を分ける
マーケティングを誰に渡すにしても、社長の頭の中にある判断基準を言語化しておかないと、引き継ぎはうまくいきません。責任者が着任してから「社長のイメージと違う」と方向修正を繰り返すことになれば、双方にとって大きなロスになります。手放す前に、少なくとも次の4つは言葉にしておきましょう。
- 創業の背景と解決したい課題: なぜこの事業を始めたのか、どんな顧客のどんな困りごとを解決したいのか。ブランドや発信の軸になる部分です。
- これまでの顧客獲得の経緯: 主要な顧客はどこから来たのか、紹介なのか、展示会なのか、Webなのか。うまくいった理由を社長なりに説明できるようにしておきます。
- 試してうまくいかなかったこと: 過去に実施して効果が出なかった施策と、その理由の仮説です。失敗の記録は、同じ投資を繰り返さないための貴重な情報になります。
- 譲れないことと任せてよいこと: 価格やブランドの表現など社長が守りたいラインと、責任者の裁量に委ねてよい範囲を分けておきます。
これらを1〜2ページ程度のメモにまとめるだけでも、責任者の立ち上がりは格段に早くなります。社長の経験を言語化して渡すことが、マーケティングを手放す作業の本体だと言っても過言ではありません。また、この言語化の過程で、社長自身が自社の強みや顧客像を改めて整理できるという副次的な効果もあります。
言語化が難しい場合は、責任者候補や外部の専門家にヒアリングしてもらい、会話の中から引き出してもらう方法も有効です。自分では当たり前だと思っている判断基準ほど、他者からの質問によって初めて言葉になるものです。
このセクションのポイント
- 創業の背景、顧客獲得の経緯、失敗した施策、譲れないことの4つを言語化する
- 1〜2ページのメモでも、責任者の立ち上がりが大きく変わる
- 言語化が難しければ、ヒアリングで引き出してもらう方法も有効
マーケティングを手放すための選択肢
経営者
実際に手放すとなると、誰に任せればいいのでしょうか。
マーケ
責任者
採用・育成・コンサル・外部の責任者の4つが選択肢です。一つに絞らず、段階的に移行する方法も現実的ですよ。 段階的にマーケティングを手放す移行の例 STEP 1 外部責任者が判断 STEP 2 担当者を育成 STEP 3 社内へ引き継ぎ
社長がマーケティングを手放す方法としては、主に次のような選択肢があります。
- マーケティング責任者を正社員で採用する: 長期的には理想的ですが、経験豊富な人材の採用には時間とコストがかかります。
- 社内の担当者を責任者に育てる: 自社への理解が深い人材を活かせますが、判断の手本となる人がいないと育成に時間がかかります。
- マーケティングコンサルに戦略を依頼する: 戦略の整理には有効ですが、実行管理が社内に残るため、社長の負担が減らないこともあります。
- 外部のマーケティング責任者を置く: 採用より早く責任者機能を確保でき、社内人材の育成と並行して進めることもできます。
どの選択肢が最適かは、会社の規模、予算、社内人材の状況によって異なります。また、一つに絞る必要もありません。例えば、当面は外部の責任者に判断と実行管理を任せながら社内の担当者を育て、将来的に社内の人材へ役割を引き継ぐといった段階的な移行も現実的な方法です。大切なのは、社長の時間に依存しない判断の仕組みをつくることです。その仕組みさえあれば、担い手が社内の人材でも外部の人材でも、マーケティングは止まらずに回り続けます。
このセクションのポイント
- 選択肢は採用・育成・コンサル・外部の責任者の4つ
- 外部の責任者に任せながら社内人材を育てる段階的移行も可能
- 大切なのは、社長の時間に依存しない判断の仕組みをつくること
よくある質問
社長がマーケティングに詳しい場合でも手放すべきですか?
詳しさよりも、時間を割けるかどうかが判断基準になります。社長がマーケティングに精通していても、経営業務で手一杯なら判断や改善が滞ります。その場合は、社長の知見を責任者に引き継ぎ、方向性の確認に関与する形に移行するのがおすすめです。 手放したら会社の想いが伝わらなくなりませんか?
社長がビジョンやブランドの核となる価値観を言語化し、責任者と共有すれば防げます。むしろ、社長の頭の中にしかなかった想いを言語化する機会になり、社内外への発信に一貫性が出るという効果もあります。 担当者がいれば、担当者に任せればよいのではないですか?
担当者に判断権限と予算の裁量を渡せるなら、それも一つの方法です。ただし、実行と判断では求められるスキルが異なるため、いきなり任せると担当者が負担を抱え込むことがあります。判断の手本となる人と一緒に進める期間を設けると移行がスムーズです。 手放した後、社長はどのくらい関与すればよいですか?
月に一度程度、責任者から成果と今後の計画の報告を受け、方向性を確認する場を持つのが一般的です。日々の判断には関与せず、重要な方針転換のときだけ承認に加わる形にすると、社長の時間を経営に集中させられます。 外部の人に任せても大丈夫でしょうか?
役割と権限、報告の仕組みを明確にすれば十分に機能します。外部の責任者は社内のしがらみがないため、社長の判断に対しても客観的な意見を出しやすいという利点があります。戦略だけでなく実行管理まで関わってもらえるかどうかを確認することが大切です。
まとめ
社長がマーケティング責任者を兼任することは、創業期には合理的な体制です。しかし事業が成長すると、マーケティングの後回し、判断の属人化、担当者の指示待ち、成功体験への固執、効果検証の甘さといった問題が現れやすくなります。社長の時間がマーケティングのボトルネックになっていると感じたら、それが手放すタイミングです。社長はビジョンと方向性を示す役割に集中し、日々の判断と実行管理は責任者に渡す。その体制をどう作るかを、採用や育成、外部の活用といった選択肢から検討していきましょう。
この記事のまとめ
- 創業期の兼任は合理的だが、成長期には足かせになりやすい
- 社長の時間がボトルネックになったら手放すタイミング
- 社長はビジョンと方向性、責任者は日々の判断と実行管理を担う
- 言語化と段階的な移行で、無理なく手放していく

